ドアノブに「Closed」のタグをかけ、電気を消す。
この瞬間に勝る開放感は、そうそう世の中には存在しないだろう。
繁華街から僅かに離れたこの場所で、雇われバーテンダーとして働き始めてからどれほどの月日が経っただろうか。
かつては「いずれ自分の店を」との野心に溢れていたが、そんな思いは今はいずこ。
鍵をかけたか、2度3度と確認するクセくらいだろうか。あの頃と変わっていないのは。
突き刺さるかのような朝の日差しと、これから一日がスタートする人々から受ける視線がむずがゆい。
朝食を求めるビジネスパーソンに交じり、ビールとつまみを物色する。
今日は気分が良い。いつもより多めに買っていこう。
仕事柄、酒浸りな毎日ではあるが、やはりプレッシャーから解放されての一杯は何物にも代えがたいものだ。
人目につかない薄暗い公園に足を向ける。いつもの定位置は、今日も空いている。
座り心地が良いとは言えない木製のベンチに腰掛けて、辺りを見渡してみる。
自分の周辺は黒のコントラストが深く、まるで俗世間から切り取られたかのようだ。
反面、視線を遠くに向ければ、白のベールに包まれた日常を垣間見ることもできるのだ。
何より素晴らしいのは、同居人がハトくらいという点だ。
——もっとも、もうちょっとすれば乳幼児がこの世界を支配するだろうけども。
ビールを空ける。炭酸の抜ける音が、公園中に響き渡るかのように感じる。
柿ピーの袋を1つ取り出す。活きの良い2〜3粒がその衝動を抑えきれず、地面にダイブする。
待ってましたとばかりに寄ってくるハト。そうか、君も気に入ったかと独り合点する。
乾燥した空気に攪拌される落葉の音に身を任せていると、不意に黒のコントラストが3段強まった。
小気味よい枯れ葉の音色は、いつの間にか指揮者不在の状態となっているようであった。
込み上げる焦燥感に駆られながら、その違和感の出所を探る。
——白だ。白が消えている。
瞬きほどの瞬間にカラーパレットが差し替わった世界を察し、
私は残った僅かなビールと握りしめていた柿ピーを口腔に放り込んだ。
始まるのだ。これから、冬が。